2009年08月08日
資産家のあなたは、狙われている(9)
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相続に付け込む、取り込み詐欺!(9)
山田の父が意識を取り戻したのは、およそ1週間後であった。
脳梗塞。実に危ない状態が続き、かろうじて、命は取り留めたが、軽度の言語障害と全身麻痺は、将来にわたっても治ることのないほど重傷であった。
山田は、忙しい時間を縫って父の病院に通い、ことの成り行きを大雑把ではあったが把握し、現状、どのようになっているのかを調べだした。
父の話から、姉の夫である小川が関与していることは間違いがなく、小川に聞けば、きっと、父より正確にことの成り行きがわかると考えた。
「お兄さん、父が倒れて分からないことだらけなのでお聞きしたんですが、うちの父と打ち合わせをして進めている事業計画のほうは、うまく行ってるんですか」山田は、取り急ぎ、まずは小川に電話をしてみた。「権藤さんという人と、特別養護老人ホームを建築するという話を進めているって、父からは聞いているんですが」
「ああ、その件は大丈夫だよ、かずちゃん」小川は山田の姉と同じように山田のことをかずちゃんと呼んでいた。「権藤さんは立派な方で、今回の件も、採算度外視して、協力してくれているんだ」
「しかし土地の登記簿謄本を取って調べたら、この土地、既に他の会社に転売されてしまっているみたいですよ」山田は、その土地が既に第三者に転売されている事実から、多少、疑って小川に言った。「普通、許認可を取る為であれば、こんなことしなんじゃないですか」
「かずちゃん、何か疑ってるんじゃないのか」小川は、急に態度を変えた。「あんたはサラリーマンなんだから不動産のことがわからないんだ」素人なのだから、口出しはしないでくれと言わんばかりの言いようだった。
「ちょっと待ってください。登記簿謄本に、売買で、所有権が2回も移っていれば、転売されたんじゃないかと疑うのもしかたがないんじゃないですか」山田は、この義理の兄の高飛車な態度がかねてより気に入らなかったから、多少、厳しい口調で言った。「お兄さんだって、この事実を知っていたら疑って掛かったって、おかしくないと思いませんか」
「なにっ、かずちゃん、俺を疑っているってことか」なかば、喧嘩腰のような態度で小川は山田に食ってかかった。「俺は、その登記簿謄本は知らないが、俺も権藤さんも、お前の親父のために頑張っているのに、そんな言い方をされるなんて心外だぞ」
「でもね、お兄さん。これは誰が聞いても、おかしな話だと思いますよ」たまたま、不動産会社に勤めていた友人に、この話を聞いてもらったときの反応を再現したように山田は言った。「権藤さんの会社が、許認可を取る工作のために所有権の移転をした所までが事実としても、それを第三者に転売していることを考えると、疑うなというほうがおかしい話ですよ」
「お前は、善意のわからない男だな」小川が山田に対して、初めてお前という言葉を吐いた。「疑いたきゃ、疑えばいい。そこまで言うなら、後は、お前が勝手にやれ」
ガチャン!と、電話は切られた。
山田は、この時点で頭の中が真っ白となってしまった。
どの話も、上場企業に勤めている山田が考えられる常識の範囲を超えることばかりで、訳がわからなくなっていた。いちばん事情がわかっている筈の小川からの情報は途切れ、目の前で行われている行為が、不動産取引では通常に行われているものなのかも判断ができなくなり、実は、小川が言ったように自分の考える常識というものが、不動産業界では非常識なのかもしれないなどとも考えてしまった。
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